2022年11月末時点にあるNFTを購入するために暗号通貨イーサ(ETH)を購入し、使わなかった残りが0.04429 ETH(当時のレートで$56.89≒¥7,758)という少額だったため、そのままウォレットに放置しておいた。これがいま(7月31日時点)、約3倍の$170(約2万4000円)になっている。「もっとたくさん保有していれば」と悔やまれます(笑。
さて、暗号資産になじみのない人でも「ビットコイン」のことは知っているでしょう。では、「イーサ(ETH)」はどうでしょう? ビットコインと比較すると、話題にのぼることは少ないでしょうが、金融に関心がある人たちの中では注目が高まっています。
まず理解すべき最も重要な点が、「イーサリアム」と「イーサ(ETH)」という2つの言葉の違いです。これらはしばしば混同されますが、その役割は全く異なります。
● イーサリアム(Ethereum)
これは、様々なアプリケーションやプログラム(スマートコントラクト)が動作する、ブロックチェーンの「プラットフォーム(基盤)」そのものの名前です。これは、しばしば「国」に例えられます。
● イーサ(Ether / ETH)
これは、イーサリアムというプラットフォーム上で、取引手数料の支払いやアプリケーションの利用に使われる、ネイティブな(=イーサリアムというプラットフォーム(国)で生まれ、その世界で活動するために不可欠な)暗号資産(通貨)の名前です。これは、その国で使われる「通貨(円)」に例えることができます。

本稿では、技術的な基盤やネットワークを指す場合は「イーサリアム」、投資の対象となる暗号資産そのものを指す場合は「イーサ(ETH)」と、区別して記述します。
ビットコインが「デジタルの金」として価値の保存手段と見なされる一方、イーサリアムは「デジタル経済の基盤となるプラットフォーム」としての地位を確立しつつある。海外の専門家や金融メディアがイーサリアムの将来性を高く評価する根拠は、そのネイティブ資産であるイーサ(ETH)の単なる価格上昇期待ではなく、プラットフォームとしての技術的進化と、現実世界への応用力に集中しているのです。
- 機関投資家の参入と金融商品化
2024年に米国証券取引委員会(SEC)が現物イーサリアムETFの上場を承認したことは、歴史的な転換点です。これにより、年金基金や資産運用会社といった、コンプライアンスを重視する巨大な資本が、規制に準拠した形で、かつ容易にイーサ(ETH)に投資できる道が開かれました。これが、現在イーサ(ETH)の価値を押し上げる最も強力な推進力です。これまで個人投資家が中心だった市場に、プロの機関投資家が本格的に参入する環境が整いつつあります。
イーサリアムは、イーサ(ETH)を保有してネットワークのセキュリティに貢献することで報酬(ステーキング利回り)を得られる「Proof-of-Stake」という仕組みを採用している。これは、機関投資家にとって、価格上昇によるキャピタルゲインだけでなく、債券の利息のような安定したインカムゲインを生み出す、非常に魅力的な特性として映る。
ビットコインも現物ETFが承認されており、機関投資家の参入という点では先行しています。しかし、その本質的な違いは「利回り(イールド)の有無」にあります。ビットコインは、その価値を希少性のみに依存する「非生産的な資産」であり、それが「デジタルの金」と称される所以です。一方、イーサ(ETH)はステーキングによってネットワーク内部から利回りを生み出す「生産的な資産」です。この特性は、機関投資家にとってイーサ(ETH)を「デジタル債券」のような、インカムゲインを目的とした投資対象としても捉えることを可能にし、ビットコインとは全く異なる需要を喚起する可能性があります。
- レイヤー2によるスケーラビリティ問題の克服
イーサリアムの最大の課題は、取引の混雑による手数料(ガス代)の高騰と処理速度の遅さでした。しかし、「レイヤー2」と呼ばれる補助的なネットワークの発展が、この問題を劇的に解決しつつあります。レイヤー2は、イーサリアム本体のセキュリティを借用しつつ、取引をオフラインで高速・安価に処理するため、これまでメインネット上では経済的に成り立たなかった、ゲーム、ソーシャルメディア、マイクロペイメントといった分野での大規模な普及の可能性を高めます。

新たなゲーム分野であるNFTゲームは、ゲームをプレイすることで得られる暗号資産(SLP)が、現実世界の法定通貨と交換可能であることから、「Play-to-Earn(遊んで稼ぐ)」と表現されます。これはイーサリアムの応用例として最も成功し、社会現象を巻き起こした領域です。『Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)』、『The Sandbox(ザ・サンドボックス)』などが有名です。オンラインカジノも続々と、イーサ(ETH)や、イーサリアム上で発行されるステーブルコイン(USDT, USDCなど)を、主要な入出金・ベット手段として採用し始めています。
- ステーブルコインと実世界資産のトークン化
イーサリアムは、米ドルなどの法定通貨と価値が連動する「ステーブルコイン」の主要な発行プラットフォームであり、これが現実世界の金融とデジタル経済を結ぶ「橋」となっています。ステーブルコインとは、価格の安定性を実現するように設計された暗号資産で、価格が激しく変動しないため決済手段として利用しやすいのです。すでにUSDCやUSDTといったステーブルコインは、イーサリアム上で数十億ドル規模で流通しており、国境を越えた決済や、DeFi(分散型金融)における基軸通貨として、不可欠な存在となっています。今後、あらゆる分野でステーブルコインの利用が爆発的に増加すると予測されています。
不動産、美術品、プライベートクレジットといった、これまで流動性の低かった実世界資産(RWA)を、イーサリアム上でデジタルトークンとして発行する動きが加速しています。これにより、これらの資産が24時間365日、世界中で取引可能になり、金融市場に革命をもたらす可能性があります。
実は、ステーブルコインや実世界資産のような、複雑な権利関係やルールをプログラムで表現する必要がある資産を、ビットコインのブロックチェーン上で直接発行することは非常に困難だとされています。一方、イーサリアムは、あらゆる資産や契約をトークン化するための、柔軟で強力な基盤を提供します。それゆえ、現在流通しているステーブルコインの大部分がイーサリアム(およびその互換チェーン)上で発行されているのです。
- エネルギー効率と持続可能性
かつて、暗号資産は膨大な電力を消費することが批判されました。しかし、イーサリアムは2022年の「The Merge」と呼ばれるアップデートで、エネルギー効率の高い仕組み(Proof-of-Stake)に移行し、電力消費量は99.9%以上削減されました。これは、環境・社会・ガバナンスを重視するESG投資の観点から、極めて重要な意味を持ちます。
一方のビットコインですが、そのセキュリティと非中央集権性を担保するために、膨大な計算能力を必要とする仕組み(Proof-of-Work)を、その根幹として維持し続けています。

イーサの価格はどうなるか?
上記の4つのトレンドは、それぞれが相互に影響し合いながら、イーサリアムネットワークの価値を高め、そのネイティブ資産であるイーサ(ETH)への需要を喚起する可能性があります。
直接的な需要の増加、間接的な価値の向上、投資家層の拡大といった要因が複合的に作用することで、イーサ(ETH)は単なる投機の対象から、利回りを生み、実用的な価値を持つ、新しいタイプの金融資産として、その地位を確立していく可能性があると、多くの専門家は見ています。
ただし、上記の4つのトレンドは、イーサ(ETH)の価格の長期的・基本的な背景を支える重要な要因です。実際の市場価格は、これらに加えて、世界経済の動向、市場全体のセンチメント、短期的な投機、規制に関するニュースなど、非常に多くの、そして複雑な要因が絡み合って形成されます。したがって、イーサ(ETH)の価格推移と本稿の内容を短絡的に結びつけないよう、ご注意ください。
ちなみに、最近のイーサ(ETH)の価格上昇を後押ししていると、多くの市場関係者が見ている主要因として、以下の2点が挙げられます。
1. 米国における「現物イーサETF」の承認と取引開始
先述の通り、これにより、年金基金や資産運用会社といった、これまで暗号資産に直接投資することが難しかった巨大な資本が、証券取引所を通じて、規制に準拠した形で容易にイーサ(ETH)を購入できるようになりました。先行したビットコインETFの成功もあり、市場への大規模な資金流入への強い期待を生んでいます。
2. 「ステーキング」による利回りへの期待の高まり
イーサ(ETH)の、「利回り(ステーキング報酬)を得ることができる」という特性が、インフレや低金利環境下で、価格上昇だけでなく安定したインカムゲインを求める機関投資家にとって魅力的な投資対象として再評価されています。
text by Tsuyoshi Tanaka
【免責事項】本稿は、海外の公開情報を基に、イーサリアムが将来有望とされる根拠を分析・要約したものであり、特定の金融商品への投資を推奨または勧誘するものではありません。暗号資産への投資は高いリスクを伴いますので、最終的な判断はご自身の責任において行ってください。