フィリピンのゲーミング規制当局PAGCORが発表した2025年のデータは、レジャー産業の「ハコの在り方」を根本から問い直す衝撃的なものとなった。フィリピン全土のカジノ総収益(GGR)は、前年比約17%増の約4,800億PHP(約1兆2,000億円)に達する見込みだが、その成長の原動力はもはや店舗にはない。収益の過半を占めつつあるのはオンライン(E-Games)であり、長年市場を牽引してきた大型IR(統合型リゾート)を含むランドベースカジノは、軒並み減収または停滞という苦境に立たされている。
主要カジノの業績分析:VIP消失とマス層の変容
PAGCORは規制機関であると同時に、直営カジノを運営している。PAGCOR2025年通期の総ゲーミング収益は951.5億PHPで、このうちオンラインが533.3億PHP(約56%)に達し、初めて過半を占めた。
セブ島のカジノリゾート「Nustar」が地方市場の開拓と新規施設投入により大幅増となったのとは対照的に、マニラ首都圏のフィリピンを代表する5大IR(統合型リゾート)各社は大きな構造変化に直面している。
第一に、オカダマニラの前年比23.1%減に象徴される、中国人VIP客の激減だ。ビザ発給制限等の政治的要因により、店舗の最高単価客が物理的に消失したダメージは大きい。直近の2025年第4四半期には前年同期比34%減という、主要IRの中で最も深刻な落ち込みを見せた。
第二に、店舗の稼働を支えていた地元フィリピンのマス層(一般客)の来店頻度低下である。かつては店舗でスロットやテーブルに興じていた層が、必ずしも「物理的なハコ」を必要としなくなった。
2025年通期における、主要4拠点のゲーミング収益(GGR)の予想は以下の通り。
- オカダマニラ:前年比20.1%減(VIP部門の8割減が直撃)
- ソレア(SEC/North合計):前年比約1~2%増(既存のSECは苦戦したがソレア・ノースの開業効果で微増)
シティ・オブ・ドリームス:前年比約12%減 - ニューポート・ワールド:前年比:約3%減
国内マス客を「逃さない」ためのマルチチャネル
ここで注目すべきは、主要IR各社が「消えたVIP」の穴を、国内マス層によって補完しようとしている点だ。IR各社は自社のオンラインプラットフォームを整備し、国内客に対し、場所を問わない遊技環境を提供している。


つまり、「消えた中国人客」は戻らないが、国内客はオンラインを通じて自社サービス内に繋ぎ止め、維持する。店舗を「高単価なプレミアム体験の場」として収益性を磨きつつ、日常的なボリューム層の収益は「オンライン」で確実に回収する。これが生存のための戦略だ。
「将来の店舗客」を育てるデジタル・エコシステム
オンラインで遊ぶ国内マス客は、単なる収益源ではない。中間層のボリュームが急速に増えているフィリピンにおいて彼らは、将来的に所得が向上した際の、あるいは特別なイベントの際に、豪華な実店舗へ足を運ぶ「ランドベース客の予備軍」でもある(IR施設はホテル、バンケットルーム、レストラン、小売などさまざまな施設を付帯している)。
IR各社はデジタルを入り口にして顧客を教育・育成し、共通のロイヤリティプログラムによって店舗へと誘引する。オンラインで貯めたポイントを店舗の宿泊や食事に使える仕組みは、物理的な店舗という「実体」を持つ企業にしかできない囲い込み戦略だ。
背景:オフショアから国内居住者へ
この大きな変化を支えたのは、規制当局PAGCORによるドラスティックな制度転換である。かつては外貨を稼ぐ手段として海外客向けのオンラインカジノビジネス(オフショアゲーミング:POGO)を合法化していたが、2024年にフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領これを廃止した。これと入れ替わるようにPAGCORは、フィリピン国内居住者向けのオンラインカジノ(eGames)の規制を緩和した。
厳格な本人確認、GPSやIPアドレスを使った ジオフェンシング(位置制限)の使用といった義務を課す一方で、銀行口座やeウォレット決済との連動により利便性を高めたことで、デジタル化は一気に加速した。当局の方針の変化が、ランドベースカジノとオンラインカジノのシームレスな融合を後押しする土壌となっている。
日本のパチンコ業界への示唆
フィリピンの事例が日本のパチンコホールビジネスに示す教訓は何か。それは「店舗(ハコ)=唯一の収益源」という現状に縛り付けられれば、来店客数の減少はそのまま衰退に直結する。物理的な来店客数の減少を食いもめる努力をしつつ、顧客接点をマルチチャネル化し、オンラインを「関係を維持する場」「将来の店舗客を育てる接点」として強化する必要がある。フィリピンのカジノ産業で起こっている「レジャーギャンブルのオンライン化」は、すでに日本でも起こっていることだからだ。
text by Tanaka Tsuyoshi