2026年2月12日、愛知県の大村知事は、IR(統合型リゾート)整備に向けた検討を正式に表明した。会見で強調されたのは「MICEを核とした国際観光都市」の実現という、県の将来像を懸けた宣言だ。

その背景には、愛知県が抱える深刻な構造的問題が横たわっている。県の公表資料には「若年層の東京圏への人口流出に歯止めをかける必要がある」という文言が明記された。

これは、従来の自動車産業一極集中による経済構造が、若者にとっての魅力不足を招いているという知事の強い焦燥感の表れと言える。人口流出阻止という至上命題に対し、IRをその「劇薬」として活用する構えだ。

立地環境において、常滑の空港島は大阪・夢洲に対して先行するアドバンテージを有している。空港島には利用可能な県有地が約50ヘクタールあり、このIR予定区域の中ではすでに「Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)」が稼働しており、インフラの基礎は整っている状態だ。

大村知事は既存のMICE施設に宿泊・エンタメ機能を付加することで、愛知を「国際競争力の高い都市」へ昇華させる狙いを持つ。軟弱地盤の改良からの開発となる夢洲に比べ、コストとスピードの両面で優位性を主張する形だ。

さらに知事は、県の「不安定かつ厳しい財政状況」についても率直に言及した。IR収益を「医療福祉施策の強化を図るための安定的な財源」と位置づけている。これは県民の反対を和らげ、導入を正当化するための極めて現実的なロジックといえる。

計画の具体化に向けて、県は2027年5月から始まる国への区域整備計画の申請受付期間に間に合わせるために、「IRの事業実現の可能性について緊急調査を開始する」と発表した。しかし、残された時間は決して多くない。

愛知県は、2020年5月まで、統合型リゾートの事業としての可能性を見極めるため、IR に関連する様々な事業者から幅広く意見を募集(RFC の実施)していた。しかし、それ以降は新型コロナウイルス感染症拡大によって検討を中断していた。これを今から再開し、2027年11月5日の申請期限に間に合わせるというスピード感は、強行軍である。実施方針の公表、事業者の公募・選定といったプロセスを経て、自治体とIR事業者が協働して区域整備計画を策定するという、膨大な工数を要する。これを、1年強の短期間で完遂できるのか。

本プロジェクトの最大の不確定要素は、2027年2月に控える愛知県知事選挙である。国への申請開始まで残り3ヶ月という極めて際どいタイミングで、知事は任期満了を迎えることになる。

知事が掲げる「人口流出阻止」や「福祉財源」という大義名分が、どこまで有権者の支持を得られるかは不透明だ。反対派からは「カジノという劇薬による財源確保」への批判が噴出することが予想される。2023年の県知事選では圧勝し4選を果たしたものの、2019年の県知事選と比較すると得票数は大きく減った。

かつて横浜市ではIR推進派の現職市長が落選し、IR事業者選定が白紙撤回となった。これと同様の混乱が起こることを、海外オペレーターは警戒するはずだ。結果として、本命不在のまま公募が不調に終わる危うさを指摘せざるを得ない。