2025年、スリランカのゲーミング産業は大きな変革期を迎えている。既存事業者のライセンスが20年間更新されるとともに、新たに2施設にライセンスが付与され、海外事業者が市場に参入した。14億人の人口を抱えるインドにもっとも近いゲーミング都市として注目が高まるスリランカの「今」をレポートする。text =Tanaka Tsuyoshi

 スリランカ(旧称セイロン)はインド洋に浮かぶ小さな島国で、インド南部から直線距離でわずか約32キロ。インドの主要都市とスリランカの間は、週に150便以上のフライトがあり、スリランカはインド人にとって手軽に訪問できる観光地だ。スリランカ側から見るとインドは最大の観光送客国で、全外国人観光客の約20%を占めている。インドに続いて多くの観光客を送り出している国はロシア、イギリスだ。ビーチリゾートと世界遺産、自然観光など多様な観光資源、そして物価の安さがヨーロッパ人を惹きつけている。。
 2025年8月現在、最大の都市コロンボでは、政府によるライセンスを取得した合計6つのカジノが営業している。

〔写真〕コロンボの老舗カジノ『Bally’s Colombo』 ※許可を得て撮影

  • 現在営業中のカジノ施設と運営会社
カジノ施設名運営会社/中核企業
Bally’s ColomboVallibel One PLC
Bellagio ColomboVallibel One PLC
Casino Marina ColomboRank Holdings
Stardust CasinoRank Holdings
Majestic Pride LankaPride Group (インド)
City of Dreams Sri LankaMelco Resorts & Entertainment (香港)

ギャンブル規制庁法案を可決

 そして8月19日、スリランカ議会はギャンブル規制庁法案(Gambling Regulatory Authority Bill)を全会一致で可決した。この法律は、新たな規制機関の設立法としての側面と、実体的規制法としての側面を併せ持つ。

 規制法としては、これまで複数の法律にまたがっていたギャンブル規制を、統一的な枠組みに置き換え、①ライセンス制度の確立、② 運営基準の設定、③マネーロンダリング対策、④責任あるギャンブル(社会的害悪の最小化と脆弱者保護措置)を講じる。

海外2事業者にライセンスを付与

 今年に入り、スリランカのゲーミング市場の国際化を象徴する2つの外資系カジノが相次いで開業した。

 インドでカジノを展開するPride Group(ゴアの船上カジノが有名)が、コロンボのランドマーク「ロータスタワー」内に今年4月に『Majestic Pride Lanka』を開業。筆者がロータスタワーを訪れた3月31日には、「明日、ソフトオープンする」とのことだったが、公式SNSの投稿によると、4月6日にソフトオープンしたようで、6月5日から7月6日をグランドオープン月間と位置づけ、さまざまなイベントを開催した。特に最終日の7月5日には、伝説的な元オーストラリア代表のクリケット選手、ブレット・リー氏を招いた特別イベントを実施。インドからの観光客を主要ターゲットに据えた、強力なマーケティング戦略を展開している。

〔画像〕大規模開発プロジェクト『シナモン・ライフ』の中核施設として、カジノを含む統合型リゾート『Cuty of Dreams Sri Lanka』が8月に開業。奥に見える『ロータス・タワー』敷地内には4月にカジノ『Majestic Pride Lanka』が開業した。

 マカオやマニラで成功を収めているカジノ事業者、メルコリゾーツ&エンターテインメント社(香港)が8月、コロンボのウォーターフロントエリアに同社の旗艦ブランド「City of Dreams」を冠した、スリランカ初の、カジノを核とした統合型リゾート(IR)『City of Dreams Sri Lanka』を開業した。同IRは、スリランカ最大のコングロマリットによる開発プロジェクト「シナモン・ライフ」の中核施設。高級ホテルやMICE施設を併設し、富裕層の長期滞在を狙う。

 IRの開業は、スリランカのゲーミング産業が、国際的な投資基準を満たす産業へと生まれ変わる象徴として、国内外から大きな注目を集めている。当然ながら、ローレンス・ホー氏が見据えているのは、広大なインド市場だ。

狙うは巨大なインド市場 観光産業の振興に期待

 スリランカ政府と、新たに参入した国際的事業者が、カジノ・IR産業に巨額の投資を行う最大の理由は、その視線の先に、隣国インドの広大な市場があるからに他ならない。

 14億を超える人口を抱えるインドでは、経済成長に伴い、可処分所得の多い富裕層および新興中間層が爆発的に増加している。彼らは質の高いエンターテインメントを渇望しているが、インド国内で合法的にカジノが楽しめるのは、ゴア州、シッキム州、ダマン準州という、ごく一部の地域に限られている。この「巨大な需要」と「供給の絶対的不足」のギャップが、スリランカにとって最大のビジネスチャンスだ。

 インドのチェンナイやムンバイ、バンガロールといった主要都市からコロンボへは、多数の直行便が就航しており、飛行時間も短い。

〔写真〕カジノ『Bally’s Colombo』のゲストの8割はインド人だ ※許可を得て撮影

 そして、インドは広大であるがゆえにインド国民が自国のセレブリティをじかに観ることも難しい。そこでスリランカのカジノは、頻繁にインドのスターを招聘するイベントを開催している。もちろんカジノ客なら観覧は無料だ。

 圧倒的なアクセスの良さと、インド国内の満たされないカジノ&エンターテインメント需要。この2つが組み合わさることで、スリランカは、インドの富裕層にとって最も魅力的な「週末カジノ旅行」の目的地となり得る。『Majestic Pride Lanka』がインド資本であること、そして『Bally’s Colombo』がインドからの顧客を長年惹きつけてきた事実は、この戦略の正しさを裏付けている。スリランカ政府にとっても、観光収益を伸ばすために、カジノ産業が巨大なインド市場を取り込むことに期待を寄せていると言っても過言ではない。

2024年の推計GGRは前年比170%

 スリランカ財務省がメディアにコメントした「2024年の税収実績は年初から8月26日までの約8カ月間で84億4700万ルピーだった」という税収実績と税率(15%)を基に、同国の2024年通年のカジノ産業の市場規模(GGR: Gross Gaming Revenue)を推計すると、前年比70%増の844億7000万ルピー(約2億7970万ドル、約424億円)と目覚ましい伸びを記録している。

 経済危機からの回復途上にある同国にとって、外貨を獲得する手段として観光産業に大きな期待を寄せているのも当然だ。ロイターの報道によれば、スリランカ政府は、現在GDPの4%を占める観光産業のシェアを10%にまで引き上げることを期待している。そして、2025年に開業した2つのカジノ施
設へのライセンス付与、カジノ収益に課せられる税率の18%への引き上げはその一環で、カジノ税に関しては新法のもとでさらに引き上げていく計画だ。

Bally’s Colombo
スリランカ最大手カジノの実像

 新規参入した『Majestic Pride Lanka』と『City of Dreams Sri Lanka』を迎え撃つ既存事業者の最大手が、コロンボで最大規模と知名度を誇る『Bally’s Colombo』だ。同カジノは、スリランカのゲーミング産業の老舗であり歴史そのものと言える存在だ。

 1995年に開業した『Bally’s Colombo』は、スリランカを代表する実業家であり現在は国会議員であるDhammika Perera(ダンミカ・ペレラ)氏によって現在の地位を築いた。運営企業Bally’s Limitedは、ペレラ氏が会長を務めるスリランカ証券取引所上場のコングロマリットVallibel One PLC傘下企業。Vallibel One PLCはカジノ事業のほか、金融、ホテル、製造業など、多岐にわたる事業を展開しており、ペレラ氏の弟であるAnuradha Perera(アヌラダ・ペレラ)氏も取締役としてそれら事業を管掌している。Bally’s Limitedの会長を務めているのは弟のアヌラダ・ペレラ氏だ。

〔写真〕Bally’s LimitedのAnuradha Perera(アヌラダ・ペレラ)会長

 カジノ施設の規模は、テーブルゲーム100台以上、スロットマシンも多数備え、VIP向けのプライベートルームも充実。連日多くの外国人観光客で賑わう。ゲストの8割以上がインド人だ。ただし、このカジノはホテルを併設していない。湖沿いの元々は倉庫だった2階建ての建物で、2階はオフィスになっている。かねてより上層階をホテルにする建て替え計画、移転計画を立てているが、政府から承認を得られないまま今日に至っている。

 ホテルを併設していない代わりに、近隣のホテルと提携して、パッケージ客の宿泊や送迎サービスをおこなっている。すぐ近くにある、コロンボを代表するホテルのひとつであるThe Kingsbury Colomboは、Bally’sのグループ企業(Vallibel One PLCの傘下企業)。また、少し南側にあるビーチリゾートホテルThe Fortress Resort & Spaや国内に4つあるAmayaブランドのホテルも同様にVallibel One PLCのレジャー事業だ。

〔写真〕人事責任者(左端)とF&B部門の幹部

スリランカのカジノ初の国際的アワードを受賞

 2025年5月に開催された「Asia Gaming Awards 2025」において、『Bally’s Colombo』はその運営とサービスが国際的にも高く評価され、「Outstanding Casino in a Niche Market(ニッチ市場における傑出したカジノ)」賞を受賞している。この賞は、マカオやシンガポールといった巨大市場以外の、いわゆるニッチ市場において、卓越した運営、サービス、革新性を示したカジノ施設に贈られるものである。

 受賞に際し、運営母体であるVallibel One PLCの広報担当者は、「この名誉ある賞は、我々のチームの卓越性への揺ぎない献身の証です。Bally’sは常にこの地域における品質の基準となるべく努力してまいりました。この受賞を励みに、スリランカのエンターテインメントシーンをさらに向上させていく所存です」とコメントしている。

〔写真〕カジノ内ではさまざまな料理を無料で楽しめる

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スリランカのカジノが受賞  Asia Gaming Awards 2025
https://www.wigo.tokyo/news/2025/557/

Bally’s Colombo リニューアルオープン
https://www.wigo.tokyo/news/2024/289/

スリランカのカジノ事情
https://www.wigo.tokyo/column/2024/131/