米中西部ミネソタ州において、予測市場(Prediction market)の運営や宣伝を禁止する州法が米国で初めて可決された。この新法は2026年8月1日に施行予定であり、違反した事業者には最大5年の禁錮刑と1万ドルの罰金が科される。しかし、ティム・ウォルズ知事が署名した翌日、米連邦機関の商品先物取引委員会(CFTC)が、州法を不服として連邦裁判所に提訴した。米国では、この予測市場の規制を巡り、地方政府と連邦政府の管轄権が真っ向から衝突する事態に発展している。

予測市場とは、「次の大統領選で誰が勝つか」といった将来のイベントの成否を一口単位のシェア(契約)にして売買する仕組みである。予測が的中すれば一定の配当が支払われ、外れれば無価値になる構造を持つ。また、購入したシェアは、結果が出る前に値上がりしていれば売却することもできる。この仕組みは、一般の消費者にとっては手軽にお金を賭けて楽しむレジャー(賭博)として消費されている。一方で、米連邦法上は「イベント契約」という一種の金融デリバティブ(先物派生商品)として公認されている。このように、ねじれが存在している。

このような賭博に近い仕組みが金融商品と認められる理由は、それがリスクを相殺する機能を持っているためである。これをパチンコホールの店舗運営に例えるならば、「新台の稼働予測」に保険をかけるようなものだ。万一、購入した新台がユーザーに支持されなかった場合に備え、あらかじめ「稼働しない」側の予測を購入(=イベント契約 / Event contract を取引)して予測市場から配当を得られれば、それが損失を補填する「保険(ヘッジ)」として機能する。単なる射幸心の充足ではなく、未来のリスクを管理する経済的合理性があるという論理に基づいている。

大統領選やスポーツイベントなど、あらゆる事象を対象にオンラインで完結する予測市場は、米国において正式な賭博ライセンスを得て営業している既存のブックメーカーにとって既に深刻な脅威となっている。
米国の正規ゲーミング業界(コマーシャルカジノ業界)を代表するアメリカギャンブル協会(AGA)は、この予測市場の台頭に対して激しい反発と警戒を表明している。
AGAは公式ウェブサイト上に損失額を示すカウンターを設置しており、2026年5月末時点で、本来なら合法ギャンブル産業から政府が得られていたはずの税収が10億ドル(約1550億円)以上失われたという試算を公表した。AGAの主張は、「カジノが得るはずの収益が予測市場に流れれば、政府の税収は減り、消費者にも不利益がある」というものだ。

AGAのビル・ミラーCEOは、予測市場が金融取引という看板を掲げることで、既存の事業者が遵守している厳格なギャンブル規制や税制(カジノ収益にかかるギャンブル税)、さらにはギャンブル障害(依存症)対策の枠組みをすり抜けている。つまり、予測市場は「ルールなき違法賭博行為」であると強く批判している。
ミネソタ州にはコマーシャルカジノはないが、ネイティブ・アメリカン(先住民部族)のみが営業を認められているトライバル・カジノがある。地元のカジノ利権(先住民部族の利権)を保護し、かつ、カジノからの大事な税収を守ることが、ミネソタ州が予測市場を厳しく禁止した最大の理由の一つだ。

予測市場は、法的な位置づけ(アーキテクチャ)の定義次第で、グレーゾーンにある仕組みが合法的な新産業になり既存産業を脅かす存在になった例だ。もしこうした手軽な予測市場が日本に普及した場合、すでにオンラインレジャー化している公営競技はもとより、パチンコをはじめとする店舗型(ランドベース)レジャーにとってもシェア奪い合いの強力なライバルとなる可能性がある。