フィリピンのゲーミング規制機関であるPAGCOR(フィリピン娯楽賭博公社)が、直営カジノ事業の民営化(民間売却)に向けた動きを加速させている。PAGCORのアレハンドロ・テンコ(Alejandro H. Tengco)会長兼CEOが、ボラカイ島で開かれた新規カジノホテルの式典で現地メディアの取材に対し明らかにした。フィリピン大手紙『Manila Bulletin』やカジノ業界専門メディアなどが報じた。
PAGCORは、国内のゲーミング産業を監督・許認可する「規制機関」であると同時に、直営ブランド「カジノ・フィリピーノ(Casino Filipino)」を通じて全国約40拠点を運営する「事業者(オペレーター)」としての二重の役割を担ってきた。しかし、規制する側が自ら市場で競合する構造は公正な競争環境の維持やガバナンスの観点から長年問題視されており、純粋な規制機関へ特化するための事業分離(民営化)が政策課題となっていた。
カジノ・フィリピーノ(Casino Filipino)の売却・民営化は、10年近く前から歴代政権で何度も浮上しては延期を繰り返してきた。ドゥテルテ政権下では2018年からの売却開始を目指し、財務省試算では2,000億ペソ(当時の為替レートで約4,200億円)規模の調達が期待されていたものの棚上げになった。マルコス現政権下の2023年に売却計画が再始動し、売却想定額を約800億ペソに引き下げたものの、2025年末には300億〜500億ペソへ下方修正。今回のテンコ会長の発言では売却想定額が約200億ペソ(約504億円)へとさらに引き下げられている。
事業売却を急ぐ最大の要因は、直営カジノの急速な業績悪化である。テンコ会長によると、民間が開発した大型の統合型リゾート(IR)との競争激化や運営費用の高騰により、直営事業の損失は累計約60億ペソ(約151億円)に達しており、2026年末には約70億ペソ(約176億円)まで拡大する見通しだという。
PAGCORは直営カジノの民営化により、約200億ペソの資金調達を見込む。また、現在約8,000人規模となっている組織からカジノ運営人員を切り離すことで、人件費や間接費などの固定費負担を大幅に圧縮する狙いがある。民営化の勧告案は10月中にも大統領府へ提出され、最終承認を待つ段階にある。
マニラ首都圏を中心にメガIRが台頭する東南アジア市場において、公営カジノが民間資本の大型施設との集客競争に苦慮し事業再編を余儀なくされる構図は、レジャー・アミューズメント産業における施設投資力と運営効率化の重要性を物語っている。