英国(Great Britain)のギャンブル規制当局であるギャンブル委員会(Gambling Commission)は、2026年10月20日、消費者行動分析シリーズ「Consumer Voice」の第3フェーズとなる調査結果を公表した。本調査は、英国内に居住する成人を対象に、民間の調査会社Yonder Consultingと共同で実施されたものである(数千人規模のオンライン定量調査に加え、定性インタビューおよびオンラインコミュニティ調査を組み合わせた複合設計)。英国ではオンラインカジノやスポーツベッティングが法的に認められており、認可を受けた多数の民間事業者が適法なオンラインサービスを展開している。

そうした成熟した合法市場が存在する環境下であっても、一部の利用者が英国内では無認可の違法サイト(illegal gambling websites:ライセンス違反のサイト)へ流出している実態がある。同委員会のデータによれば、過去12か月間に違法サイトを利用した経験を持つ成人はギャンブル参加者全体の数%程度にとどまり、大多数の顧客が日常的に利用しているわけではない。しかし、意図的あるいは知らず知らずのうちに違法サイトを利用する層が一定数存在し、その背景には単一の要因にとどまらない複雑な動機が絡み合っている。※英国においては、違法サイトにアクセスして賭博を行った消費者(プレイヤー)個人の遊技行為そのものは処罰対象ではない。

調査データによると、違法サイトを継続的・定期的に利用する層には顕著な偏りが見られる。全体的な利用率は低い水準にあるものの、「週に複数回以上オンラインギャンブルを行う高頻度層」や、「5つ以上のアカウントを併用している多頻度プレイヤー」において、違法サイトの利用率は跳ね上がる。属性面では、18歳から34歳の比較的若い世代の男性においてその割合が圧倒的に高い。

彼らの多くは、最初から違法サイトだけを目的に参加しているわけではない。認可サイトで日常的に遊技を行う過程で、後述する手続き上の摩擦や利用制限に直面し、その代替手段として非公認市場へアクセスする行動パターンが浮き彫りになっている。また、違法サイト利用者の多くは「自分が違法・無認可のサイトを使っている」ことを自覚しておらず、あるいは合法性そのものに関心を払っていない実態も確認された。

同委員会は、違法サイト利用者を心理的態度や動機に基づいて以下の4つのペルソナに分類・定義している。

① 自己排除者(Self-Excluders)

英国には、過度な使い過ぎやギャンブル障害(Gambling Disorder)の予防・軽減を目的として、利用者が自ら申請して国内すべての認可サイトへのアクセスを一定期間遮断する一元的な自己排除プログラム「GAMSTOP(ギャムストップ)」(※ギャンブルとストップを合成した語)が導入されている。この層は、自ら設定した排除措置をすり抜けてギャンブルを継続するために、規制の及ばない違法サイトを探し出す。調査では、自己排除に登録した直後や、ギャンブルへの衝動が再発したタイミングで、抜け道として検索を行うケースが典型的であると指摘されている。

② 熟練の主張者(Skilled Advocates)

この層は、4つのペルソナの中で最も能動的・確信犯的に違法サイトを選択している。政府や規制当局、既存の大手事業者に対する信頼度が際立って低く、合法市場における身元確認(KYC)のための書類提出、入金制限、あるいは出金時の確認手続きや支払遅延などを「不当な管理・自由の侵害」と捉える傾向が強い。
「自分の金の使い方に口出しされたくない」「ボーナス条件やオッズは無認可サイトの方が有利だ」といった合理性を主張し、自らの意思で規制外のプラットフォームを利用する。

③ 社交的探索者(Social Explorers)

SNS(X、Telegram、Reddit等)やオンラインフォーラム、友人・知人からの口コミや推奨をきっかけに流入する層である。「このサイトは出金が早い」「限定ボーナスがもらえる」といったコミュニティ内の評判を信じ、紹介コードやアフィリエイトリンクを経由して登録する。自身が利用しているサイトが英国内で認可されているかどうかには頓着しない。

④ 偶発的滞在者(Accidental Tourists)

サイトが英国内で認可を受けているかどうかの区別をまったく意識せず、検索エンジンの上位に表示されたことや、魅力的なプロモーションに惹かれて偶然利用している層を指す。デザインや決済画面が正規サイトと見分けがつかないため、トラブルに巻き込まれるまで違法・無認可であることに気づかないケースが多い。

これら4類型に共通する離脱の引き金となっているのが、正規サイトにおける「手続きの摩擦(Friction)」である。安全対策としての確認作業が、結果として顧客を非公認市場へ押し出す(Push)要因として機能している。

今回の調査で特に注目されたのが、ネット空間における言葉の意味の変質である。元来、「Not on Gamstop」というフレーズは、英国内で無認可の違法サイトを指し、同国の自己排除プログラム(GAMSTOP)の登録者がそれをすり抜けて利用するサイトという意味合いで使われていた。

しかし調査データの分析によれば、現在では一般ユーザーの検索行動や掲示板において、単に自己排除プログラムを回避する目的だけでなく、「厳格な本人確認(KYC)を求められない」「出金手続きの手間がない」といった、手続きの煩雑さを避けて手軽に遊べる無認可サイト全般を指す俗称へと意味合いが広がっている。

具体的には、以下の3点が強力なプッシュ要因・引き込み要因として挙げられている:

身元確認(KYC)の煩わしさ:免許証や公共料金の請求書、所得証明などの提出を求められることへの忌避感。
迅速な出金と制限のなさ:認可サイトで課される出金上限やアカウント凍結・審査遅延を嫌い、「即時出金」を売りにするサイトを選ぶ。
代替決済手段の利用:クレジットカード決済の制限(英国では2020年以降、認可サイトでのクレカ賭博が禁止)や暗号資産決済への需要。

この「Not on Gamstop」という語句を冠したアフィリエイトサイトやSEOページが多数存在し、自己排除の回避目的だけでなく、単に「面倒な手続きを避けたい」一般層を違法サイトへと誘引する日常的な導線として機能している実態が明らかになった。

今回の英国の調査結果は、管理や安全対策の強化が利用者の行動にどのような副作用をもたらすかを示す事例といえる。これは遠い海外のオンライン市場の話にとどまらず、国内のパチンコ・パチスロ産業が将来直面しうる課題とも重なる。

仮に将来、パチンコ・パチスロ遊技においてキャッシュレス化が進展し、過度の使い過ぎ防止やギャンブル障害対策の観点から、遊技履歴や利用金額が店舗間・法人間をまたいで一元管理されるシステムが制度化された場合を想定してみる。健全化に向けた厳格な管理や本人確認の義務付けは、事業者にとって法令遵守の観点から必須の対応となる。

しかし、英国の「熟練の主張者」に見られるように、利用客の中には個人情報の把握や行動履歴の追跡を「過剰な干渉」と受け止め、強い拒否感を示す層が一定数存在する。もしそうした制度が導入された場合、厳格に「ユーザー保護」を行う店舗を敬遠し、あえてその管理システムに加盟していない店舗(法的に問題のない営業形態であっても)を選んで遊技するユーザーが現れる可能性がある。業界全体のインフラ設計においては、健全化施策を実直に進める店舗が客離れなどの不利益を被らないよう、利用者の受容性や「手続きの摩擦」を極力排除したスマートな設計が求められるだろう。